……おぼえている。覚えている。


あのとき私はアルバイトを始めたばかりのはずだから、大学一年生の春だっただろうか。

多分、もう三年前のこと。


はっとしたのが顔に出ていたらしい。瀧川さんが緩く笑った。


「お抹茶を入れた紙コップ、透明なビニール袋か何かを切って、ふたをしてくださったでしょう」

「たい焼きを包む用のビニール袋です」

「最初、全然気がつかなかったんですよ。コップにふたをしないとこぼれるということも思いつかないくらい、焦っていて。後で思いついたときも、そういう、ふたがセットになっている紙コップなのかと思っていたんです」


稲やさんに飲み物のお持ち帰りメニューはない。


たまたまあった紙コップを見てとっさにした、苦肉の策だった。


なるべく見目よくしたつもりだけれど、明らかに手作り感満載。怒られるかもしれないと思った。


「渡していただいたものを持って失礼して、職場で落ち着いてから中を見たら、テープで留めてあって驚きました。ストローもつけてくださって」

「……飲みにくいかなと、思いまして」

「ええ。おかげさまで飲みやすかったです」


『ありがとうございます。お手数おかけして申し訳ありません。また参ります』


慌ただしく帰る準備をしている中での丁寧な挨拶に、私は確か、『次こそは是非、お座敷でお召し上がりください』というようなことを返したんだった気がする。