「わ、忘れて大丈夫です……!」


恐れ多くて慌てる私に「嫌です、忘れません」と意地悪に即答する。さらにはその場でスマホにメモまで取った。


ぱっと取り出して少しいじってまた鞄にしまったのは、多分カレンダーとかメモ帳とかに打ち込んだのに違いない。


そうして私を見遣る、いたずらめいた眼差しに。その、一連の行動に。


甘やかな、目眩がしそうだった。


……ああもう、くそう。


そんなこと、されたら。


期待したくなるじゃ、ないですか。


誕生日まで——来年の四月まで、常連でいてくださるってことでしょう。

そんなに先まで会ってもいいと、思ってくださったということでしょう。


密かに唇を噛む。


瀧川さんはどうして不意打ちがいつも甘いの。


……ええい、こうなったら私もメモ取る……!


瀧川さんは戯れの延長でこの場でメモを取ったんだと思うけれど、私は真剣に絶対忘れないようにこの場でメモを取る。


私はあなたのお仕事先と名字と、小倉が好きってことしか知らない。


だから、お誕生日を知りたかったら、この流れにのって聞くしかない。


誕生日くらいなら、いいかな。

瀧川さんのことをこれ以上知らないようにって無理に目をそらし続けてきたけれど、誕生日くらいなら、聞いてもいいだろうか。


……お願いだから、私も同じ戯れだと、あなたに倣っただけだと勘違いしてほしい。


どうか、この押し込めた必死さに気づかないで。