小倉ひとつ。

抑えた呼吸がそれでも荒い。心音が加速していく。


嫌がっていると思われたくなくて、慌てて顔を上げた。


そうしたら、上げた先に、なんだか目を見開いた瀧川さんがいた。その耳が一刷け赤い。


「たき、がわさん」


強張る口を動かす。ひどくかすれているけれど、これが精一杯だから、そのまま続けた。


「ええと、その……ありがとう、ございます」

「いいえ」


はっとした瀧川さんが、動揺を顔にのせたまま、穏やかに首を振った。


「すみません、ちょっと……びっくり、して」


しどろもどろの言い訳をする間も体温が上がるので、仕方なく手で扇ぐ。


奥さんがたい焼きとお抹茶を持ってきてくださるまでには落ち着かないと。


どうしようどうしよう。


「いいえ。こちらこそ、不躾にすみません」


泣きそうになりながら、いいえ、をもう一つ落とした。


今日つけてきたイヤリングは、ピンクゴールドなのが可愛くてお気に入りで。そっと触れると、右耳が燃えているみたいに熱を持っている。


ひたすら深呼吸をしてなんとか心を落ち着けるしかなさそうなので、こっそり深呼吸を繰り返した。


お、落ち着こう落ち着こう。落ち着いて。


おかげで少しは熱が引いた頃、引き戸越しに「失礼します」と声が聞こえた。


はい、とふたりで返事をする。


奥さんが注文通りのものを置いて出て、ぴちりと引き戸を閉めるまで、顔が強張っていないか、赤くないかが気がかりだった。