小倉ひとつ。

「今日も髪、下ろしてらっしゃるんですね」


正座をしたところで振られた話題がそれだったので、内心びっくりした。


奥さんと何を話してたのか、聞かないんだ。流れで聞かれるかと思った。


本当は全然そんなことはないんだけれど、もしかするとお仕事の話の可能性もあるからだろう。


そういう気配りが、本当に細やかだ。


「はい。せっかくお休みの日なので、ハーフアップにしました」


今日は時間があったので、編み込みとかツイストとかを駆使して凝ったハーフアップにしてきた。


ちゃんと巻いてから結んだから、私にしては結構いい仕上がりになっていると思う。

少なくとも凝ってるふうには見える気がする、と内心こっそり自我自賛。


「以前ご一緒させていただいたときも確か、ハーフアップにされてましたよね?」

「はい!」


よく覚えてるなあ、さすがだなあ、と思っていたら。


「以前も素敵でしたが、今日の髪型は本当にとてもよくお似合いで素敵ですね」


にっこり微笑まれて撃沈した。


違うハーフアップだって気づくの、瀧川さんがあまりにできる大人すぎる。


なんなんだろう。社会人のスキルなのかな……。


しゃかいじんはみんな褒め上手になるんだろうか。


「ありがとう、ございます」


かろうじて返したところに、ああ、今日はイヤリングもされてるからかな、とふいに手が伸ばされた。