小倉ひとつ。

「かおりちゃんかおりちゃん」

「はい」

「今日はふたりとものんびりできるの?」

「私は時間があります。瀧川さんも、以前、休日はのんびりできるとおっしゃっていたかと思いますが……」

「あらまあ、そうなの!」


奥さんの顔がぱあっと明るくなった。


なんだかとても嬉しそうである。なんだなんだ。


「じゃあ、お座敷はこっそり貸切にしておくわ。周りを気にしないでゆっくりしていって」

「え!? でも、せっかく残り一席あるのにそんな……!」


お座敷は三席なので、本来なら、私と瀧川さんともうひとり座れる。


お座敷を開放しておいたら、混雑時でもおひとりぶん回転率が上がるのに。

ましてや休日のお昼時なんて、大抵満席になるのに、いいんだろうか。ご迷惑じゃないかな。


ただでさえ混乱していた頭がもっと混乱しそうな言葉に目を白黒させていると、奥さんがくすりと笑った。


「あら、一席くらいいいのよ。かおりちゃんと瀧川くんの時間が合うのは久しぶりでしょう? せっかくだもの、たまにはふたりでのんびりお話していってちょうだい」

「ありがとうございます、お言葉に甘えさせていただきます……!」


がばりと頭を下げて、急いでお座敷に向き直る。


お座敷の引き戸の前に、見慣れた休日にしか履かないウイングチップが、端に揃えて置いてあった。


私も倣って端にパンプスを揃えておく。


可愛い休日用のパンプスを履いてきてよかった。


瀧川さんにお会いしなかったらお座敷に行かないつもりだったから、お仕事用の控えめなパンプスでもいいかなって一瞬思ったんだけれど、ちゃんと可愛いお気に入りの靴を履いてきてほんとーによかった……!