「…もう、いっか」



ずっと、ずっと憧れていた。
煌々と輝くクリスマスツリーを、大好きな人の隣で見る。そんな素敵なクリスマスを。

『来年も来ような』と甘く囁かれて、うっとりしながら語尾にハートなんか付けて返事をして。重なった瞳のままに優しい口づけを・・・っていう、ロマン溢れるデートを。


でも、もう、いいや。

分かっていたことじゃないか。
通常を遥かに上回る現実主義者な彼の隣で過ごす以上、そんな甘い時間は到底訪れることはないのだと。

そして私は、そんなところも分かった上で、彼のことが好きなんだと。

ならもう、それだけで、いいじゃないか。



「…帰ろう」



恐らく律くんも、今頃家だろう。
とりあえず連絡だけでも入れておいた方がいいかな、と軽い気持ちで取り出したスマホの画面に、私は思わず『えっ』と声を漏らした。



「な、なにこれ…」



21:05という時間表示の下に、一度スクロールしただけじゃ追いきれない通知の量。

メッセージだけでなく、電話も20件近く入っている。相手は、全部、全部、



「律くん…っ」



うそみたいだ。これは幻なんじゃないだろうか。
だって、あの律くんが、勝手に怒って勝手に逃げ出した私のことを、こんなに気に掛けてくれるだなんて。

口元を手で覆い、声にならない言葉を抑え込む。
鼻の奥がツンとして、瞳に込み上げる熱を、なんとか我慢した、瞬間。



「……志乃っ」



背中から伝わるその声に、鼓膜が震えた。

振り向いた先で、膝に手をついて肩で息をする彼は、息苦しそうな表情を浮かべながら私に歩み寄り、迷わず私の腕を引いて抱き締める。