「そのガキには悪いが、自分の両親を殺した人物の話を聞いたって、ろくな話になりゃしねぇ。返ってくる返事は最も残酷なものだ。話を聞いたところで後悔するだけさ」

「……確かに、後悔するだけかもしれない。話を聞かなければ良かったと思うかもしれない。でも……知る事も大事なのかもしれないと、僕は彼女の話を聞いてそう思っただけだ」
 
ムニンは自分に向けられる剣の刀身を素手で掴んだ。

その姿にブラウドは驚き目を見張り、ムニンの右手からはポタポタと血が手首を伝って、地面へと滴り落ちた。

「怒りや憎悪に身を任せても、見えるものなんて何もない。その身を復讐に囚われれば、一生抜け出す事なんて出来ない。もし抜け出す手段があるとすれば、心から憎んでいる存在と、同じ行動をした時だろうな。そして自分は初めてその時に知るだろう。人を殺した時に、抱いてしまう感情のことを!」
 
その言葉に私たちは目を丸くする。

しかし直ぐ側でその話を聞いていたブラウドは苦笑した。

「イカれてやがるな……お前は」

「そう、だね。僕は生まれた時からイカれているのさ。この瞳を持って生まれた以上はね」
 
その言葉に私はある事を思い出した。確かある魔法書に狼人族について、こう書かれていた事があったのだ。

【狼人族はみな、深紅の瞳を持っている】と。