「童話の話を読んでいれば、その物語の中で登場して来る狼人族や鳥人族のモデルになっているのが、彼らだって分かるはずだけど、ソフィアは【面白くない】って言って、全然興味を示してくれなかったものね」
 
テトは両手を上げるとヤレヤレと言って息を吐く。
 
た、確かにテトの言う通り、童話とかそういった物語には興味を持てなくて、【物語に出てくる狼人族や鳥人族、ユニコーンやドラゴンなんて全部夢物語だ】って、思い込んでしまっていて。

「でも良いんじゃないか? ソフィアの知らなかった事を知る事が出来たんだからさ」
 
アレスはそう言って私の頭に手を置く。
 
その姿を見た私は顔を赤くして頬を膨らませた。
 
子供扱いされている気がして、私はアレスを一睨みした後にそっぽを向いたのだった。

✭ ✭ ✭

「……」
 
アレスたちと別れた俺は一人、真夜中の森の入口手前まで来ていた。

そしてじっと入口の奥を見つめた。

月明かりに照らされて影が入口の方へと伸びて行く。

しかしその月の光は決して真夜中の森を照らすことはなく、入口へと伸びていった影はそのまま、森の中に広がっている暗闇の中へと消えていった。

その光景を見届けた俺は、唇を軽く噛んで右拳に力を込める。

「こんなところに来て、どうするんだ俺は……!」
 
俺は四十年も前に狼一族を抜けている。

そんな俺が今更様子を見に行くなんてどうかしているぞ。

あんな辛い思いをしたと言うのに、それを自ら掘り起こそうというのか!?
 
そう自分の中で自問自答しながら、俺は力を込めていた右拳を解いて、複雑な感情を抱きながら表情を歪めた。

そして一歩前へと足を踏み込んだ。