「すみません、気づかなくて……」

頭を下げながらホットコーヒーののせられたトレイを受け取る。

「いいのいいの、まだそれほど混んでないからね。でも今はちょっとミルクを火にかけてるから、手が離せなくて。ごめんね」

「いえいえ。というか、毎日ただで飲ませてもらってるんですから、どんどんこき使ってください」

あかりさんはおかしそうに声を上げて笑い、「じゃあ、お言葉に甘えて」ともうひとつのコーヒーをカウンターにのせた。わたしは頷いてカップとソーサーをトレイにのせ、伝票に書いてある席番を見て運んでいく。

ふたつのコーヒーをお客さんに届け終えて、空になったトレイを持ってカウンターに戻ろうとしたとき、入り口のほうから、からんころんと音が聞こえてきた。振り向くと、ぶら下がっているドアベルが揺れていて、扉の隙間から天音が入ってくるところだった。

「こんにちは」

声をかけると、彼はわたしに目を向けてにこっと笑った。

「いらっしゃい、天音くん」

カウンターの中から声をかけたあかりさんにはぺこりと頭を下げる。それから何人かの常連さんにも挨拶されてそのたびに律儀に頭を下げていた。

毎日通いつめて二時間から三時間は居座っているので、わたしたちは常連のお客さんたちにすっかり顔を覚えられて、いつも笑顔で迎えてもらえるようになった。