たっぷり二時間近く鑑賞したあと、これから彼方くんと会う予定なのだという遠子と別れて、三人で食事に行くことになった。

街は、鮮やかなイルミネーションと赤や緑の飾りつけで華やかに彩られている。

「もうすぐクリスマスだね」

わたしが誰にともなくつぶやくと、隣を歩く天音が頷いた。

翔希くんはあまり興味がなさそうに、イルミネーションの向こうにそびえる高層ビルを見ている。もしかしたら絵に描こうと思っているのかもしれない。

「翔希くん、今日は急な誘いに付き合ってくれてありがとね」

声をかけると、彼は「いえ」と軽く首を振った。

「おれも色んな人の絵見れてよかったです。おれ、自己流だったんであんまり他の人の見たことなくて。勉強になりました」

「でも、わたし全然絵とか詳しくないんだけど、翔希くんの絵はすごく個性があっていいなと思ったよ。あんな絵、見たことないもん」

「ありがとうございます」

わたしの言葉に、翔希くんがにっこりと笑って答えた。心から嬉しそうな、今まででいちばんの笑顔だった。

天音は目を丸くして翔希くんを見ている。家でもこんなふうに笑うことはなかなかなかったんだろうな、と思った。翔希くんはクールであまり感情をおもてに出すタイプではないらしい。

驚きを隠せない天音を見ながらくすくす笑っていると、翔希くんが突然言った。

「兄ちゃん、いい人に彼女になってもらえてよかったな」

わたしと天音は同時に勢いよく振り向き、薄く笑みを浮かべる翔希くんに慌てて首を振る。

「いや、別にいい人なんかじゃ……っていか! 違う違う、彼女とかじゃないの……たまたま会って仲良くなっただけで、友達だよ」

隣で天音も目を見開いてこくこく頷いている。でも、翔希くんは「ふうん?」と首を傾げただけだった。