「私の友達の友達があそこの高校に通ってるらしいんだけど、終業式の日も三時間目まで授業するって聞いたことあるよ。それなら下校は昼頃だろうから、今から急いで行けば間に合うんじゃない?」

それを聞いた香奈が、「よし、じゃあ行こう!」と荷物を持って立ち上がった。あまりの早さにわたしはおろおろと腰を上げる。

「えっ、えっ、本当に? 本当に行くの?」

「行くよー。遥ひとりじゃ他校は行きにくいでしょ。あたしたちが責任持って送り届けるから、安心してよ」

香奈はウインクでもしそうな笑顔で言った。

「私も行く」と遠子と菜々美も席を立つ。そのまま三人が教室の外へと歩き出したので、わたしも早足で後を追った。

靴箱に向かう途中、菜々美が訊ねてくる。

「その彼のこと、好きなの?」

わたしは軽く首を振って答えた。

「好き、っていうか……友達だよ。でも、すごく大事で特別で、絶対に失くしたくない友達」

「そっか」

菜々美は微笑んで頷いた。

わたしは靴を履き替えながら天音の顔を思い浮かべる。

天音に対する思いは、彼方くんに対する思いとは全く違う。

彼方くんへの思いは、勢いよく燃え上がる真っ赤な炎のような感じ。

天音のへの思いは、こんこんと湧きあがる澄んだ泉のような、静かに降り積もる真っ白な雪のような感じだ。

音もなく降りしきり、気がついたら積もっている雪。優しくて柔らかくて綺麗な雪。

この気持ちが変わらずにありつづけるものなのか、それとも変わっていくものなのかは分からないけれど、こんなふうに誰かを思ったことはないから、両手でそっと包み込むように大事にしたいな、と思う。