「……麻里」

「ん?」

「外、寒かったですか」

「ん」


するりと伸ばされた指先が、私の鼻を押さえる。


鼻の頭を滑った指の、……嫌じゃないけど艶っぽいというかなんというか、予定外な形容しがたい感覚に、悲鳴を上げなかった私を褒め称えたい。


「真っ赤ですよ」

「寒かったから」

「手も冷たいですし」

「……寒かったから」

「耳も真っ赤ですよ」

「イヤーマフ忘れちゃったの」

「ちゃんと防寒してください」

「……う、はい。すみません」


伊波くんが鼻を撫で、両手を握り、耳を包む度、体温が混ざって、温かい肌が冷えてぬるくなっていく感覚に、もぞもぞする。


伊波くんに他意はなく、心配してくれているのは分かっているんだけど、なんだかものすごく恥ずかしい。あと近い。


「い、伊波くん」

「はい」

「……おでんのいい匂いする」


状況を打開すべく、視線を外したまま、話題転換すれば。


きょとんと瞠目した伊波くんは、ゆっくり笑った。


「すぐ食べましょうか」

「うん。おなかすいちゃった」

「よそってありますよ。コーヒーでも飲みますか?」

「ほうじ茶お願いします」


はい、とようやく離れてくれた伊波くんに、ようやく私の心臓も落ち着いた。