怒りを押し殺しているのではなく、本当にそう心から思っている声色で、全然責めない。


君のせいだとか、努力しろとか、ましてや、ふざけるな、迷惑だ、だとかは何も言わない。


ただ静かに、ひたすら穏やかに、優しい声音で、優しい微笑みで、私を抱き締めて言う。


『麻里』


まるで、好きですよ、と言うみたいに確かな熱量を瞳に込めて、そうっと大切に私を呼んで。


『大丈夫ですよ』


麻里。


『今日はモンブランでも食べましょうか。マカロンの方がいいですか?』


そんなふうにおどけて笑う。


私が何をやらかしても、たとえば致命的なミスだったり、伊波くんにも何かしらの負担や迷惑がかかってしまったりしても、伊波くんは決して怒らない。


伊波くんが声を荒げて誰かを責めたところを、今まで一度も見たことがない。


『やっちゃったことはやっちゃったことですから。たまにはそういうこともありますよね』


今日はもう寝ちゃうといいですよ、疲れたでしょう——なんて。