考えてる場合じゃない。とにかく着替えなきゃ。

春を感じさせるような桜色の着物を手に取ると、その生地にぎくりと体が固まる。

この生地、間違いない。西陣織りだ!?え、なんで?なぜこんな高価な着物なの!?

どんな凝り性?バカなのか!?

って違う!早く着なきゃ、10分とかギリギリなんだから!!って、私着れなかったらどうするつもりだったんだろ、あの人…。

っあー!そんなこと考えてる場合じゃないって!!

着物を広げると、ポロっと落ちた何か。

「…っ!?」

なんで着物の間に下着が挟まってるの!?ってあれ、私あのときの格好のまま…。

っ!?私さっき!!っ~バカじゃん!大バカじゃん!!

自分でも顔が真っ赤なのが分かる。

あー。もういい。こんな恥じらいきっとすぐなくなる。

次から次に沸いてくる邪念を追っ払って、大急ぎで着物に着替えた。

「終わったか」

「…」

聞く意味はあるんでしょうか。言葉と共に開け放たれた襖。

間に合ったからいいものの、間に合ってなかったら最悪だ。