神様修行はじめます! 其の五

「自分の地位や命よりも、大切な存在……?」


 あたしの脳裏に、門川君の姿が浮かんだ。


 ……そうだよね。このクレーター頭さんだって、あたしと同じくらい今回の件を心配してるんだよね。


 心配で、心配で、心配で、たまらないんだよね。


 自分の命の危機も厭わないほどに、迎えに行きたい、会いたい、大切な人がいるんだよね……。


「小浮気の長よ、気持ちは分かるが……」


「いいじゃん絹糸。クレーターさんを連れてってあげようよ」


 あたしの言葉に、絹糸が驚いた顔をする。


「小娘?」


「このままここに置いてきぼりにして、『お前は、ただ黙って待ち続けていろ』なんて可哀そうだよ」


「じゃが、この者の身に万が一のことがあれば、一族は大変なことになってしまう」


「それは、この人だって承知のうえでしょ?」


 それに、この人の身になにかあっても、そのときはこの人の兄弟姉妹が一族の後を継ぐ。


 たしかに突然の代替わりは混乱を招いて、一族にとっては大騒動になるけれど……


 しょせん一族の長の存在なんて、いくらでも代わりのきく量産品の部品なんだ。


 未練も容赦もなく首は挿げ替えられて、新しい勢力が実権を握り、やがて一族は何事も無かったように落ち着きを取り戻す。


 それが、こちらの世界の掟だ。


 そんな掟を百も承知のうえで、それでもこの人は、大切な人のいる場所へ駆けつけたいんだ。


「その覚悟があるなら、いいじゃん。ね、一緒に行こう。クレーターさん」


「滅火の娘よ……」


「いいよ、別にお礼なんてさ」


「そうではなくて、『クレーター』とは何なのだ?」


「……世の中には、知らなくていいこともあるんだよ。クレーターさん」


「むしょうに知りたい。いやむしろ、絶対に知るべきなような気がする」


「知らなくていいって別に!」


「やっぱりお前、なにか隠しているのだろう!?」


「しつこいよ! これ以上しつこくしたら、ピンセットで一本一本、手作業で丁寧に引っこ抜くよ!?」


「なにをだ!? なにを抜くのだ、えぇ!? ホラ言ってみろ! さあ言ってみろ!」


「すみませんが、話が決まったのなら一刻も早く移動したいと思うのですが、どなたも異存はございませんね?」


 セバスチャンさんが冷静に突っ込んで、あたしとクレーターさんの間の一触即発の空気を救ってくれた。


 ちょっと感動的なカンジになったと思ったのに、やっぱり『火』と『水』って相容れないぜ。チッ……。