神様修行はじめます! 其の五

「とにかく、消えたふたりの行方を追わねばならん。小浮気からも誰ぞ、ついて来てほしいのじゃが」


「当然、私が行く! この私みずからが水園を探しに行くとも!」


「そ、そんな長様!? なにをおっしゃいますか!?」


 お付きの人たちが、自分たちの長の発言に飛び上らんばかりに驚いた。


「お待ちください! そのような危険な御役目は、ぜひ我らにお任せを!」


「いいや! 私が行く! 行くと言ったら行く!」


「長様!」


 付き人たちが袂に縋りついて、「どうかお考え直しを」と泣かんばかりに頼み込んでいる。


 でもクレーター頭は、止められれば止められるほど意固地になって、自分が行くと主張し続けた。


「今頃、さぞや水園は悩み苦しんでいることだろう! 私が出向いてやらねば!」


 固い決意を見せるクレーター頭を、あたしはちょっと呆気にとられながら眺めていた。


 いくら自慢の娘の安否が心配とはいえ、まさか、これほどの上位一族の長が、みずからお出ましなんて。


 普通では考えられない。一国のお殿様が、危険なダンジョン攻略に個人で参加表明するようなものだもの。


「よっぱど水園さんが可愛いんだねぇ……」


 思わず漏らしたつぶやきを聞いた付き人さんが、小さな声で返事をしてくれた。


「無理もない。長様にとって水園様は、たったひとり残された家族なのだ」


 その悲しみと同情のこもった声に、あたしは戸惑う。


 たったひとり、残された家族……?


 なにその、たいそう重みのある言葉は。気になるじゃん。


「水園様には、お妹君がいらっしゃった。だが、異形との戦いでお命を落とされたのだ」


「そ、そうなの? それはお気の毒に」


「奥方様もすでに亡く、もう長様の親族は、長の地位を虎視眈々と狙っている兄弟以外には水園様だけだ」


「…………」


「ご自分の地位や命よりも、なによりも水園様がお大事なのだ」