神様修行はじめます! 其の五

 大騒ぎしているあたしたちの姿を、当の騒ぎの犯人が、黒く柔和な両目でジッと見つめている。


 その小さな瞳に向かって、あたしは、恒例の決まり文句を叫んだ。


「こら、アレキサンドロヴィチ3世! もっと静かに登場しろっていつも言ってるでしょ!」


 あたしの怒鳴り声を無言で聞いているのは、権田原最速を誇る、伝書亀のアレキサンドロヴィチ3世。


 と、その奥さんのカモメちゃんご夫婦だ。


 コンコルドも顔負けのマッハ速度で飛行するクセに、それ以外の動作も性格も、実にカメカメしたのんびり屋さん。


「この手紙を端境一族の典雅様に、大至急で届けるように」


 そう言ってセバスチャンさんが差し出した手紙を、アーンと開いた口の中にパクッと受け取る。


 ……それにしてもいっつも思うんだけど、なんで亀に日本語が通じんの?


 亀に日本語が理解できて、あたしに英語が理解できないという、この神秘。


「お……お前たち、権田原の里へ行って、我が子を連れて来い……」


 桜の樹からジュリエッタによって救出された絹糸が、足元をフラつかせながら近寄って来る。


「絹糸、大丈夫? なんか目の焦点が合ってないけど」


「ベルベットちゃん? わたくしの可愛いパールちゃんをどうするつもりですの?」


「お前のでも、そんなキテレツな名でもないわい。今回は我が子も同行させる」


「え? なんで?」


「永久の役割をするものが必要じゃ」