あたしのじー様が、むかし犯した大きな罪。


 永世おばあ様への叶わぬ想いを暴走させた結果の、過ち。


 じー様は、自分以外の男との結婚が決まった永世おばあ様を連れて、この世界から逃げ出して一緒になろうとした。


 そしていま、門川君と水園さんが、消えた。


 その事実を思うと、どうしてもひとつの言葉が、あたしの脳裏に浮かんでしまう。


『そして歴史は繰り返す』


 ……門川君? まさか、もしかして、ひょっとして、水園さんのことを……?


 そう不安に思うと同時に、心は強烈にそんな考えを否定もする。


 そんなことない! だって門川君は、あたしに愛を誓ってくれた! あたしが彼を信じなきゃ、誰が信じるの!?


 でも、そう信じたい気持ちと同じくらい大きく、強く、不安にも思ってしまう。


 それは……


 あたしが、門川君を愛しているから。


 愛してるからこそ不安なんだ。


 愛する気持ちはこんなにも大切で、かけがえがないものなのに、目には見えず手で触ることもできない。


 自分以外の人間の心の内なんて、しょせん、誰にも分からないじゃないか。


 たとえいつの間にか目減りしていても、薄れてしまっていても、変わってしまっていても、あたしにはそれを止めるすべも、知るすべもない。


 こんなに不確かで儚いものだと知っているから、失うことがリアルに怖すぎて……その怯えが、あたしの心に目隠しをする。


 愛してるからこそ信じなきゃならないのに、愛してるからこそ、信じきることができないなんて……。


「小娘よ、いまお前がなにを考えているか、当ててやろうか?」


 虚ろな目で暗い思考に捕らわれているあたしを、絹糸が見上げている。


「『因果は巡る』じゃろう? 違うか?」


「……惜しい。ちょっと違った」


 弱々しく笑うあたしを、絹糸の黄金色の目が、じっと見つめていた。