そういう生活を続けていると、知らず知らずにどんどん人間性が崩壊していって、精神的に余裕が無くなってしまうもんだ。


 ただでさえ門川君って、人間味の薄い人工知能みたいな人格してるし。


 モーレツ会社員・あるあるのパターンだ。

 ある日突然ブチッと切れて、失踪事件とかコンビニ強盗とか、ダイナミックなことをやらかしてしまうのだよ。人間というものは。


「もしかしたら、そのパターンじゃないのかな?」


「キレた永久がコンビニを襲う姿は、どうにも想像できんがのぅ」


「庵に戻られてからの当主様のご様子までは、我らにはわかりませぬ」


「なにしろ庵の中では、水園様とふたりきりでしたので」


 じゃあ、やっぱり水園さんと『何か』があったんだろうか?


 彼が幼い頃からずっと焦がれ続けているお母さんに、とてもよく似た美しい女性と、ふたりっきりで過ごしているうちに。


 …………。


『何か』って……なに……?


「ああ、本当に、なんということなのだろうか!」


 小浮気の人が、頭を抱えて叫んでいる。


「門川当主様のご結婚話が動き出した途端の、失踪事件などと! これでは、かつての大罪の再来ではないか!」


―― バチィィーーーン!


 叫んだ人の頭を、凍雨くんとお岩さんが同時に思い切り平手でブッ叩いた。


「あなたねぇ! 『デリカシー』って言葉、知りませんの!? デ・リ・カ・シー!」


「今度またそんなこと言ったら、素っ裸に剥いて氷のオブジェにして、正門の狛犬ブラザーズと並べて展示するからな!?」


 ふたり一緒に噛みつくように怒鳴りながら、まるで餅つきみたいにリズミカルに、交代制でベシベシ頭を叩いている。


 その連携作業を眺めながら、あたしは、自分の胸の奥にある深い傷が疼くのを感じていた。