「天内君。さあ僕の花嫁、早くここへ来たまえ」

「……え? え? なに?」


 状況に対応できずに目を丸くしているあたしに、門川君がさらに追い打ちをかけてくる。


「僕たちの婚約を、この場で各一族に広く知らしめると話していただろう? さあ、おいで天内君」


「はい? 婚約をシメる?」


「閉めてどうする。いいから早くここへ来たまえ」


 ……えっとぉ? こ、婚約? この場で?


 そんなん、ぜんぜん、聞いてないんですけど?


 そりゃたしかに、あたしは門川君から結婚を申し込まれてはいる。


 けど、それはまだお互いの意思確認どまりのハズ。


 だってこの前、上層部の面々に門川君が、

『僕と天内君は、いずれ結婚する』

 って話を非公式で持ちかけたときの反応は、最悪だったから。


 上層部全員、キョトンとした直後に、一斉に腹を抱えて屋根が吹き飛ぶかと思うほどの大爆笑。


 ただのおもしろい一発ギャグとして、綺麗さっぱり片付けられちゃったんだもん。


 だから、『こりゃ正攻法じゃラチが明かないから、なんか別の方法を考えなきゃダメだよねー』とは、話してたけど……。