今頃、現世はどうなっているんだろうか。


 お父さんやお母さん、それに真美はどうしてるだろう。


 あたしっていう存在を忘れてしまったあの人たちが、どんな風に日常を過ごしているのかを考えると、怖い。


 あたしがいなくても笑いながら毎日を送っている姿を想像すると、どうしようもなく寂しくて、胸がジクジク痛むんだ。


 そんで、ずうぅーっとメソメソ泣いてた。


 このまま一生泣き続けるんじゃないかと思ってたけど、それでもどうにか復活できたのは仲間のおかげ。


 つらい別れを経験したのは、あたしだけじゃないし。


『ただでさえ夏で湿度が高いというのに、それ以上ジメジメするつもりなら、お前の口の中に大量の乾燥ワカメを突っ込むぞ?』


 子猫ちゃんと離ればなれになった絹糸は、あたしと同じくらい寂しいはずなのに、落ち込んだ様子はまったく見せない。


 いつも通りに飄々としてる姿を見ると、いつまでもあたしひとりが世界中の不幸を背負ったみたいな暗い顔してらんないなって思う。


 できるだけ仲間には心配かけないようにしなきゃ。


「ところで里緒、あんた最近どうなのよ? ちゃんと食べてるの? 眠れてる?」


 だいぶ妊婦さんらしいスタイルになった塔子さんも、なにかにつけて優しくしてくれる。


 塔子さんの方こそ体調管理をしっかりしなきゃならないのに、いつもこんな風に気遣ってくれるんだ。


「里緒、なにも心配することなんかないわ。端境一族がどんどん出世して発言力を強めたら、あんたを現世に行けるようにしてあげる。このあたしに全部まかせなさい!」


 自分の胸をドンッと叩き、口元に手を当てて「ほーっほっほ!」と高笑いする塔子さんは、自信と気力に溢れてる。


 端境一族が重要な役職に就任して以来、予想通り周囲の上位一族たちから露骨なイジメやイビリが始まったんだけど……


 やっぱり、この人はそれ以上に強かった。