扉が閉まる音を聞いた瞬間、すごい勢いで涙があふれた。
まるで曇ったレンズ越しのように目の前が歪んでしまって、視界が利かない。
体の奥から次々と込み上げる悲しみと涙のせいで、足がガクガク震えて、真っ直ぐ歩くことができなかった。
「うっ……。うぅ……」
嗚咽が漏れないように両手で口元を押さえ、歯を食いしばりながら必死に堪える。
そうして夢遊病者のようにフラフラと廊下を進んで行くと、玄関の手前で絹糸があたしを待っていた。
子猫ちゃんの姿は見えない。
もう、別れを済ませたんだろう。
きっと二階のあたしの部屋で、あの白い真綿のような小さな体が、ひとりぼっちで別離の悲しみに耐えている……。
「小娘。あちらの世界へ行くか?」
金色の目が、あたしをじっと見上げた。
「それとも、ここにとどまるか?」
この期に及んで、まだあたしに選択の余地を与えようとしてくれる、残酷な優しさ。
激しく揺れる自分の心のように、あたしは何度も大きく首を横に振った。
「……行く」
ノドを引き攣らせながら、どうにかその言葉だけを伝えると、絹糸は押し黙った。
金の両目が逡巡するように瞬きを繰り返し、なにかをしゃべろうと口を開いて、でもなにも言えずにまた口を閉じる。
そして小さくひとつ溜め息をついて、ヒョイと玄関に下りて扉へ向かった。
「ならば、この扉を自分の手で開けよ」
自分が選んだ道の扉を、自分で押し開け。
この手で、未練と後戻りの道を断つために。
言われるがまま、あたしはヨロめきながら靴を履き、扉に近づいた。
両足は鉛のように重くて、まるで深いぬかるみの中を歩いているようだ。
これは、あたしの迷いの表れ。もう覚悟を決めたはずなのに、断ちがたい想いが後ろから背中をつかみ、強く引き戻そうとする。
でも、この想いは叶わない。
どんなに望もうとも、この願いは決して届かないんだ。
それをよく知るあたしは、ドアの取っ手を握った。
金属の冷たさに怯えながら手にグッと力を込めると、どうしようもないほどあっけなくドアが開いてしまった。
その先に広がる夜の世界に、絹糸があたしの足元を通ってスルリと飛び出す。
あたしは見慣れたはずの景色を前にして、怖気づいてしまった。
まるで曇ったレンズ越しのように目の前が歪んでしまって、視界が利かない。
体の奥から次々と込み上げる悲しみと涙のせいで、足がガクガク震えて、真っ直ぐ歩くことができなかった。
「うっ……。うぅ……」
嗚咽が漏れないように両手で口元を押さえ、歯を食いしばりながら必死に堪える。
そうして夢遊病者のようにフラフラと廊下を進んで行くと、玄関の手前で絹糸があたしを待っていた。
子猫ちゃんの姿は見えない。
もう、別れを済ませたんだろう。
きっと二階のあたしの部屋で、あの白い真綿のような小さな体が、ひとりぼっちで別離の悲しみに耐えている……。
「小娘。あちらの世界へ行くか?」
金色の目が、あたしをじっと見上げた。
「それとも、ここにとどまるか?」
この期に及んで、まだあたしに選択の余地を与えようとしてくれる、残酷な優しさ。
激しく揺れる自分の心のように、あたしは何度も大きく首を横に振った。
「……行く」
ノドを引き攣らせながら、どうにかその言葉だけを伝えると、絹糸は押し黙った。
金の両目が逡巡するように瞬きを繰り返し、なにかをしゃべろうと口を開いて、でもなにも言えずにまた口を閉じる。
そして小さくひとつ溜め息をついて、ヒョイと玄関に下りて扉へ向かった。
「ならば、この扉を自分の手で開けよ」
自分が選んだ道の扉を、自分で押し開け。
この手で、未練と後戻りの道を断つために。
言われるがまま、あたしはヨロめきながら靴を履き、扉に近づいた。
両足は鉛のように重くて、まるで深いぬかるみの中を歩いているようだ。
これは、あたしの迷いの表れ。もう覚悟を決めたはずなのに、断ちがたい想いが後ろから背中をつかみ、強く引き戻そうとする。
でも、この想いは叶わない。
どんなに望もうとも、この願いは決して届かないんだ。
それをよく知るあたしは、ドアの取っ手を握った。
金属の冷たさに怯えながら手にグッと力を込めると、どうしようもないほどあっけなくドアが開いてしまった。
その先に広がる夜の世界に、絹糸があたしの足元を通ってスルリと飛び出す。
あたしは見慣れたはずの景色を前にして、怖気づいてしまった。


