地味男との戦いが終わり、みんなで戻ったあちら側の世界では……


 地味男の犯した罪がすっかり露見して、大っ変な騒動になってしまった。


 これまでの事件と違い、今回の事件は現世まで巻き込んでいたし、さらに水絵巻もあんなことになっちゃったし。


 そもそも事を起こした地味男自身が、自分のやったことを隠し立てるつもりがなかったから、隠蔽工作みたいなことを一切やってなかったんだ。


 だからどうにもごまかしようがなくて、事件の重大性を知った神の一族全体が引っくり返っちゃった。


 地味男の断罪はしかたないとしても、世間が処罰を求める声は歯止めが利かずに、どんどん大きくなるばかり。


 なんと、『蛟一族の断絶を!』って話にまで膨れ上がってしまった。


 一族断絶って意味はつまり、赤ん坊までひとり残らず処刑しちゃうってこと。


 罪のない赤ちゃんまで皆殺しなんて、さすがにあんまりだよ。誰かれ構わず殺しゃ済むって問題じゃないでしょうが。


 どうなることかとヒヤヒヤしたけど、セバスチャンさんが裏で駆けずり回って根回ししてくれたおかげで、そこまで至らずに済んだ。


 塔子さんのパパも影でかなり尽力してくれたみたい。


 塔子さんのパパって、上位一族の当主とは思えないぐらい話の分かる人で、すごく男気があって頼りがいのある人なんだよ。


 それで蛟一族は、立場が上位から一気に最下層まで落ちるということだけで決着がついた。


 でもこれってかなり重い処罰なんだ。権勢を誇りまくってた蛟一族からしてみれば悪夢よりひどい現実。


 世間は『命があるだけマシだ』って息巻いてるけど、ホントに命しかないような状態なんだもん。


 今後、彼らはどうやって生きていくんだろう。蛟一族の人たちがどんな辛酸を舐めることになるかと思うと、鉛のように気が重くなってしまう。


 もうこれ以上は、あたしたちにはどうしようもできないことではあるんだけどね……。


 重犯罪人である地味男の遺体は、普通に埋葬することは許されなかった。


 そこで門川君が、議会にひとつの提案をしたんだ。


『太鼓橋の下の暗黒の世界に、彼の遺体を葬ろう』って。


 そう。あの、美しい水晶の光の群れが生まれる水底に。


 でも上層部の誰もそんな事実は知らないから、『それが犯罪人にはふさわしい』ってことで、あっさり話が通った。


 だから今、地味男はあの場所で眠っている。


 たゆたう水の底で、清らかで澄んだ優しい光たちに包まれながら、どこまでも穏やかに静かに……。