「里緒、お待たせー。さ、帰ろう」


 教室の窓辺の席に座ってボンヤリと空を見上げていたあたしは、真美の声に振り返った。


 放課後の、もうだいぶ人影も少なくなった教室の入り口に、帰り支度をすっかり整えた真美が立っている。


 あたしはリュックを肩にかけてイスから立ち上がり、真美の方へと向かった。


「帰ろ、里緒」

「うん」


 真美と一緒に廊下に出ながら、チラリと背後を振り返る。


 いつもの見慣れた教室の、ごく普通の机やイスや備品や、壁に貼られた掲示物とかが目に映った。


 そして、まだ教室に残って夢中でおしゃべりしてる子たちとか、忘れ物を取りに慌てて駆け込んでくる子とか。


 ここには、平凡で当たり前の風景が、ものすごく当たり前に存在してた。


 当たり前、かぁ……。


 あたしは小さく微笑んで、教室を後にした。