「アマンダー、お邪魔しますわよー」

「失礼いたします」


 板張りの廊下に衣擦れの音が響いて、障子にふたつの黒い影が映る。


 お岩さんとセバスチャンさんが、ふたり揃ってご登場だ。


 本日のお岩さんは、ブルーグリーンの柔らかいオーガンジー素材が、ふんわりと広がったドレス。


 淡い金色の小さなラメが散りばめられていて、とてもロマンティックなんだけど……。


 なぜか胸のど真ん中に堂々と縫い付けられている、大きな象さんワッペンが、すべてのロマンを打ち砕いている……。
 

「……お岩さん、すごく目立つね、そのワッペン」


「でしょう? これはハインリッヒちゃんへの、わたくしの愛の証ですわ!」


「そういえば元気? マンモスのハインリッヒ君」


「もうすっかり里に馴染みましたわ。重い荷物を運んだり、人を乗せたり、ホレボレする大活躍ですわ!」


 お岩さんを慕って、常世島から移ったハインリッヒ君。


 権田原で運送業になったのか。新たな人生の一歩を踏み出せて、良かった良かった。


「今日は特に暑いですわねぇ。ジュリエッタちゃんたちが羨ましいですわ」


「そだね、さすがに土の中は涼しいだろうね」


「こう暑いと、巨大ミミズになりたいなぁと思いません? 思いますわよね?」


「いや、思わないけど……」


「岩よ、暑いんだったら、まずお前のその暑苦しい恰好をなんとかせい。頼むから」


「わたくしのポリシーにかかわる問題ですから、死んでもこれは譲れませんわ。ベルベットちゃん」


「我は絹糸じゃ」


 いつも通りのお約束の展開。


 お岩さんたちが毎回訪ねて来てくれるのも、あたしのことを気遣ってくれているからだ。


 ほんと、ありがたいよなぁ……。