「思わんわい。お前は人の話を聞かん性格じゃからのぅ。現世でも、さぞや単純に突っ走っておろう」


「だって遺伝なんだもん、この性格。文句があるなら、じー様に申し立てて」


「しばらく、こちらへ来るのは控えたらどうじゃ? 現世でナオの供養なり何なり、お前もすべきことがあろうよ」


 あたしは元々、基本的に平日は現世で過ごし、週末や休日はこちらの世界と、行ったり来たりの生活だった。


 でもいまは守るべき門川君がいない状態で、護衛の任務もない。


 だから、無理にこちらに来ることはないって言われてるんだけど……。


「それでもやっぱり、いままで通りこっちに通いたい。門川君がいる世界だもん」


「物好きじゃのう。ま、お前の好きにせい」


 素っ気ない風を装ってるけど、その実、絹糸はあたしを気遣ってくれるんだよね。


 門川君に会えないと知っていながら、それでも足繁く通ってくるあたしの気持ちを理解して、心配してくれているんだ。


 だから絹糸も、凍雨君も、いつもそばにいてくれる。


 心配かけるくらいなら、現世に戻ったままの方がいいのかな? とも考えたんだけど……。


「うああぁぁ~~」


 庭の水撒きを終えたしま子が、こっちを向いて柄杓をぶんぶん振り回し、『お仕事、終わった!』アピールしている。


「しま子、お疲れさまー。こっちにおいで」

「うああぅ」


 嬉しそうな笑顔で、いそいそとあたしに近寄って来るしま子。


 ペタンと畳の上に座って、ニコニコ目を細めてあたしを見おろす表情が、大型ワンコみたいでとってもかわいい。


 あたしにとって、こっち側の世界の大切な存在は、門川君だけじゃない。


 しま子も、絹糸も、凍雨君も。


 だから門川君に会えないんだとしても、やっぱり来たいんだよね。あたし……。