「成重様」
崩れゆく世界の中で、ひどく明瞭な声が聞こえた。
その声の主は床に片膝をついて背中を丸めながら、肩で大きく息をしている。
ちょっと突けばグラリと崩れ落ちてしまいそうな体勢を必死に堪え、下を向いたまま、彼は飄々と言った。
「最後にひと言、よろしゅうございますか?」
そのセバスチャンさんの声に、地味男が振り向いた。
そしてかつての旧友に、哀れとも無念とも言い表せない複雑な視線を投げかける。
「……どうぞ、ご随意に。ただしあまり時間がないので手短に願います」
地味男の返答に対して、セバスチャンさんは荒い息を吐きながら言った。
「何かが、欠けているとは思いませんか?」
言われた地味男は、『意味が分からぬ』といった具合に小首を傾げる。
セバスチャンさんは、相変わらず慇懃な口調で言葉を続けた。
「お気づきになりませんか? わたくしにとって欠くべからざる物が、いま欠けているという事実に」
「……はて? 一向に分かりませんが?」
「わたくしと常に寄り添い、常に共にあり、お互いがお互いの陰となり日向となる、背中合わせの存在が……」
言いながらゆっくりと、セバスチャンさんが顔を上げる。
汗にまみれ、乱れた黒髪の合間に見える研ぎ澄まされた美貌が、ニヤリと不敵に笑った。
「ほら、わたくしの隣におりませぬよ?」
「…………!」
なにかを察した地味男がハッと息をのんだ瞬間……
「どおりゃああぁぁぁ――――!!」
いつの間にか地味男のすぐ後ろの庭木の陰に潜んでいたお岩さんが、ものすごい勢いで飛び出してきた。
崩れゆく世界の中で、ひどく明瞭な声が聞こえた。
その声の主は床に片膝をついて背中を丸めながら、肩で大きく息をしている。
ちょっと突けばグラリと崩れ落ちてしまいそうな体勢を必死に堪え、下を向いたまま、彼は飄々と言った。
「最後にひと言、よろしゅうございますか?」
そのセバスチャンさんの声に、地味男が振り向いた。
そしてかつての旧友に、哀れとも無念とも言い表せない複雑な視線を投げかける。
「……どうぞ、ご随意に。ただしあまり時間がないので手短に願います」
地味男の返答に対して、セバスチャンさんは荒い息を吐きながら言った。
「何かが、欠けているとは思いませんか?」
言われた地味男は、『意味が分からぬ』といった具合に小首を傾げる。
セバスチャンさんは、相変わらず慇懃な口調で言葉を続けた。
「お気づきになりませんか? わたくしにとって欠くべからざる物が、いま欠けているという事実に」
「……はて? 一向に分かりませんが?」
「わたくしと常に寄り添い、常に共にあり、お互いがお互いの陰となり日向となる、背中合わせの存在が……」
言いながらゆっくりと、セバスチャンさんが顔を上げる。
汗にまみれ、乱れた黒髪の合間に見える研ぎ澄まされた美貌が、ニヤリと不敵に笑った。
「ほら、わたくしの隣におりませぬよ?」
「…………!」
なにかを察した地味男がハッと息をのんだ瞬間……
「どおりゃああぁぁぁ――――!!」
いつの間にか地味男のすぐ後ろの庭木の陰に潜んでいたお岩さんが、ものすごい勢いで飛び出してきた。


