―― フッ……


 炎の目玉が、また高速でグルグルと回転し始める。


 ロックオン解除されてホッとしたのもつかの間、また一瞬で変化した姿を見て、あたしは悲鳴を上げた。


「……手ぇ!?」


 なんと今度は、でっかい手!


 超巨大な炎の手がグッと拳を握りしめ、ガラスを叩き割らんばかりの勢いでバンバンと殴りつけている。


 ブン殴られるたびに、ガラス全体がビリビリと派手な音をたてて振動して、今にも破壊されてしまいそう。


「ちょ!? なに気前よくジャブ繰り出してんのよ!? ヤメろ窓が割れるー!」


「この窓ガラスは、異形の侵入を防ぐための呪術が込められておるはずなんじゃがのぅ」


 半分感心したような声を出す絹糸に、あたしは怒鳴り返した。


「ぜんっぜん効いてないじゃん! 誰が祈祷したの!? その役立たずの術師、今すぐここに来て責任取りやがれ!」


「永世じゃよ」


「永世おばあ様、ごめんなさい! 来なくていいです!」


「術を込めてからだいぶ時間が経っているとはいえ、永世の術をこうまで翻弄するとは。こやつ、古代種じゃな」


 言われてみれば炎からは、とても原始的な高濃度のエネルギーを感じる。


 白銀と金色の混じった炎の中心部分の光彩は、見ていて圧されるほどの勢い。


 なんだか油断してると魂を持っていかれそうな、引き込まれそうなほど妖しい美しさを孕んでいた。


「この異形はどうやら、お前の滅火の性質を感じ取ったらしいのぅ。同じ炎属性ということで、ライバル視しとるんじゃろう」


 絹糸の説明に、あたしは青ざめてしまった。


 ライバルって、あたしそんなんいらないよ! そもそも炎のライバルって部分が意味不明!


 なんのジャンルで、どこの頂点目指してんのよコイツは!


 浄火といい、ほんと炎属性のヤツってメンドくさいのばっかり! ……あ、あたしも炎属性だ。


「どうかしましたの!?」


 お岩さんたちが広間から飛び出してきた。そして窓の外を見て、全員揃って目を丸くして立ち尽くす。