「この気配はなんじゃ!? いったいなにが起きた!?」


 広間から飛び出してきた絹糸が、窓の外をひと目見て絶句する。


 あたしは目を剥いたまま、絹糸に向かって引っくり返った大声を張り上げた。


「絹糸ぉ! 家事! 家事だよ!」


「『火事』じゃ!」


「だから家事だって言ってるじゃん!」


 いや、そんな微妙なイントネーションの違いはこの際どうでもいいから、早く119番!


 あれ? それって救急車だったっけ? じゃあ110番か!


「いや違うって! パトカー呼んでどーするのよ、あたし! しっかりしろ!」


「まったくじゃ! しっかりせい小娘! これは普通の炎ではないぞ!」


 頭を抱えてワタワタしているあたしに、絹糸が鋭い声を浴びせる。


「お前、炎の一族の末裔じゃろうが! この危険な気配が読み取れんのか! 情けない奴じゃ!」


「へ?」


 絹糸に一喝されて、あたしは目をパチパチさせた。


 そして両手で頭を抱えたまま、ちょっと冷静さを取り戻した目で炎をジッと確認する。


 危険な気配って言われても、そもそも危険じゃない家事……いや、火事なんてあるの?


 世の中の火災現場というものは、たいがい危険というのが一般的な決まり事で……。


「ん?」


 一瞬、炎が奇妙な揺らぎを見せた。ような気がした。


 舌のように細かく枝分かれしている炎のそれぞれが、なんか、自分勝手に動いているみたい。


 火って空気の流れに沿った一定の動きをするはずなのに、なんでこんなバラバラな……?


 と思った瞬間、あたしは、目の前の光景に再び目を剥いた。