あたしの頬を両手で包み、門川君が優しい瞳で語りかけてくる。


「天内君、僕は……」


―― ゴォォッ……!


 彼の言葉を、あたしは最後まで聞くことができなかった。


 耳鳴りのような低い音がしたかと思ったら、廊下に沿った中庭に面している窓一面が、とつぜん真っ赤に染まったからだ。


 透明なガラスを通して中庭側から飛び込んできた鮮烈な赤い色彩が、廊下全体の空間を不思議な茜色に染める。


 いきなり起こった現象に、あたしはキョトンと目を丸くした。


 な、なんだろ? まるで夕焼けみたいな色だけど。


 って、今は夜なんだから夕焼けなわけないよね? じゃあ、朝焼けか?


 ……え!? 朝焼けってことは、つまりもう朝!? あ、あたし外泊しちゃったの!?


 うわやばい! さすがにお父さんとお母さんにメッチャ怒られる! ヘタすりゃ処刑されてしまう!


「これは……」


 朝焼け色に染まった門川君の訝しげな表情が、一気に引き締まった。彼は厳しい目つきで、廊下の窓の向こう側を眺めている。


 外泊のうまい言い訳を必死こいて考えていたあたしも、彼の視線につられて窓の外を見て、眉をひそめた。


 ん? なんだこれ? 空が朝焼けに染まっているのかと思ったけど、違う。


 窓全体が、まるで色ガラスみたいに完全に朱色に染まってるんだ。


 ついさっきまで無色透明の普通のガラスだったはずなのに、なんでいきなり……。


「!?」


 その謎が解けて、驚愕したあたしはパカッと大口を開けてしまった。


 そして窓の方向を震える指先で指しながら、素っ頓狂な声を張り上げる。


「か、門川君! 外が燃えてる!」


 なんと窓の外一面、紅蓮の炎が轟々と燃え盛っている。


 まさに、業火だ。透き通った輝きを放つ圧倒的な金色の大火が、朱と赤の混じった触手を不規則に四方に伸ばして、屋敷を包み込んでいた。


 外はもう、炎しか見えない。完全に視界が覆い尽くされてしまっていて、その危機的光景に唖然とするしかない。


 これじゃもう、どこにも逃げられないよ! まるで超巨大な篝火の中に、屋敷ごとスッポリ飛び込んでしまったみたいだ!