神様修行はじめます! 其の五

「それにしても大広間中、大騒ぎになってしまったな」


「まったくじゃ。高座で痴話げんかの末、顔面からスッ転んだ当主など、我の記憶の中でもひとりもおらぬわい」


「……それのことじゃない。常世島の件だよ」


「上位一族だけで留まる問題ではありませんから。どの一族も、可能性が皆無とは申せませんので」


 漆黒の執事服と、白手袋を身につけた美貌の青年が、大きくうなづきながら同意する。


 うん。実際、権田原一族だって、信子ババのケースが起きてしまったわけで。


 中位だから下位だからといって、他人事では済まない問題なんだ。


「あのう、ボク思うんですけど、地味男の嘘っぱち……って可能性はないんですか?」


 凍雨君が、あの男は信用ならないって顔つきをする。


 でも門川君がその可能性を否定した。


「常世島の浄火君に連絡をとったよ。蛟一族の調査は、間違いなく行われたそうだ」


「だからって、あの地味男の腹に一物がないとは限らないですよね?」


 ナチュラルに『地味男地味男』連発する凍雨君の失礼さ加減には、誰もツッコまない。


 あたしが常世島での一件以来、ずっとあの男のことを、悪意を込めて『あの地味男』呼ばわりしてたもんだから。


 あたしたちの内輪では完全に、『地味男』が通り名になってしまっていた。


「だがそうなってくると今度は、彼が『水絵巻』の話を持ち出したことが気になるんだよ」


「? どういうことですか?」


「彼が僕たちを騙しているとして、水絵巻を使えば、その嘘がたちどころにバレてしまう」


「あ、そうか」


 凍雨君がパカッと口を開けて納得した。


 嘘がバレると承知のうえなら、なんで水絵巻のことを自分から言い出したのか。


 そこに裏があるのだとしたら、今度はそっちの方が心配になってくる。


 嫌な予感がする。またなにかが、起きそうな予感が……。