「偉い人ってさぁ、座って偉そうにしてんのが仕事なんだって思ってた」


 でも実際は、ブラック企業顔負けの勤務状況だ。


 一族によっては、ホントに威張って座ってるだけの、タヌキの置物みたいな当主もいやがるけど。


「ふむ、我らが少しでも永久を手伝えればよいのじゃが……」


 何気なくつぶやいた絹糸の言葉に、あたしは思わず沈黙してしまった。


 その空気を察した絹糸が、すかさずフォローする。


「小娘よ、気に病むでない。お前がいま永久のそばにいられぬのは、仕方のないことじゃ」


 凍雨君も気遣わしげな目をして、あたしを見つめている。


 ふたりとも、あたしの事を心配して傍についていてくれているんだ。


 凍雨君なんて、こうしてあたしの部屋で仕事するより、執務室の方が書類も揃ってるからよっぽど効率良いのに。


 だからあたしは無理して、ニカッと笑って見せた。


「大丈夫だよ。あたしは平気だよ」


 ……本当は色々と不安だし、心配だし、寂しいし、すごく辛い。


 だってあたしが門川君と引き離されて、まったく会えなくなってしまってから、もう一ヵ月にもなるから。


 門川君に……会いたいなぁ……。


 心の中で小さな溜め息をつきながら、あたしは視線を上げた。


 この間から軒下に飾り始めた赤い風鈴が、風に揺れて風流な音を奏でている。


 赤い小さな可愛い金魚柄と、澄んだ音色を、彼と一緒に愛でたいと願いながら、もうこんなに時間が過ぎてしまった。


 そもそもの、事の発端になったあの時のことを、あたしはまざまざと思い出すことができる。


 あの大広間の、門川定例会議の後で起きた出来事を…………。