「すべての事情を知った成重様の嘆きと怒りは、凄まじいものでした」


 愛する人が、命と引き換えにしてまで守った一族の未来と希望の星は、実は真っ赤なニセモノだった。


 尊いはずの犠牲は、ただの無駄死。


「あの男の中でどれほどの激情が荒れ狂うたか、想像に難くないのぅ。お前、よくその場で殺されなんだものじゃ。運が良かったな」


「……殺された方がまだ、ましだったかもしれません」


 水煙さんの虚ろな目が、ボンヤリと畳の上を見ている。


 セバスチャンさんが、そんな彼女に向かって静かに言った。


「成重様は本来、とても理知的で、非常に忍耐強いお方なのです。水園様を殺す衝動に駆られるよりも、その先にある重要なものを悟ったのですね?」


「はい。『持たざる者』の存在に着目した成重様は、神の一族の歴史を探るために文献を読みあさるようになりました。その中に、『持たざる者』が生まれる原因が記されている巻物を見つけたのです」


「ほう? あの膨大な資料の中で、あやつは自分の望む物を見つけ出したのか? それは忍耐力というより、むしろ執念じゃな。実に恐ろしい」


 絹糸が大きく息を吐き、つくづく感嘆する。


 絹糸がこうまで言うくらいだから、その文献ってのはハンパな量じゃないんだろう。


 それを地味男は片っ端から、しらみ潰しにひとつひとつ、コツコツと調べていった。


 事が事だから、他人に手伝わせるわけにもいかないし、本当に自分一人だけで。


 薄暗い宝物庫の中で、小さな明かりの中、夜通し黙々と巻物をひも解く地味男の孤独な姿が思い浮かぶ。


 その目にはきっと、狂気に似た執念が宿っていただろう。


 しかも、その資料が本当に正しいかどうかの確証を得るために、常世島にまで自ら出向いて調査までして。


 執念というより、それはもう、執着だ。