「やれやれ。門川の宝物庫の管理と警備が、それほど穴だらけじゃったとはのう。ため息しか出てこぬわい」


「カギを持っている当人ならば、いくらでも扉は開け放題ですからね。道理といえば道理でございます」


 絹糸がハァッと息を吐き、セバスチャンさんがそれに同意する。


 申し訳なさそうに肩を小さく丸めている水園さんの背中を、クレーターさんが手の平で優しく撫でた。


「成重様は、水絵巻に映る水晶の姿を見て、それはそれは喜んでいらっしゃいました。本当に純粋に、水晶の姿を見たいだけだったのです」


 父親の手に励まされるように、水園さんは言葉を続ける。


「でもそのうちに、成重様は『水晶の幼い頃の様子も見たい』と言い出して……」


「幼い頃? ふうむ。それでお前が水絵巻に触れて、過去の記憶を映したのか?」


「はい」


「お前が水絵巻に触れたせいで、お前の秘密を暴露するあの映像までもが、映ってしもうたのじゃな?」


「……はい。私は『持たざる者』であるため、自分の意思を制御することができなかったようです。私の心の一番奥深い物を、水絵巻は映してしまいました」


 水園さんは、罪を悔いる罪人のような顔をする。


「水絵巻になんて、どんなに懇願されても手を出すべきではありませんでした……」


 胸の奥から異物を吐き出すかのように、とても苦しげにつぶやく水園さんに、絹糸は厳かに言い切った。


「宝物とは使い方次第で、とてつもない凶器になりうる。じゃからこそ、普段から厳重に管理しておく必要があるのじゃ。ただ貴重品じゃからという理由だけで、人の手から遠ざけておるわけではない」


 人の夢をなんでもかなえる、魔法の品物。


 それは例えるなら、麻薬のようなものなのかもしれない。


 見返りが大きい分、リスクも、払うことになる代償も大きい。


 身を滅ぼしかねない力を持つ門川の宝物によって、地味男の中の開けてはならない扉が、こじ開けられてしまった。