ひしひしと伝わってくる。地味男の中にある、底の知れない悲しみ。


 どうにもならない無念。痛いほどの後悔。


 涙ぐんでいるその目は、わめき散らすあたしの姿に、過去の自分を重ねていた。


 水晶さんを守ることができず、目の前で無惨に死なせてしまった自分自身の姿を。


 だから……助けようと、してくれたんだ。


 元に戻すことが叶わないなら、せめて、しま子の命を救おうとしてくれた。


 せめて命だけでもと、しま子に手を差し伸べずにいられなかったんだ。


 たとえそれが形の違う『永遠の別れ』を、あたしとしま子にもたらす行為であったとしても。


 それでも。せめて、彼は……。


「う……」


 地味男を見返すあたしの唇が、震える。


 グッと噛んで耐えようとしたけど、唇も心も発作みたいにガクガクと揺れて、とてもガマンなんかできなかった。


「う……わあぁぁ――――!!」


 どうにもならない感情が爆発して、あたしのノドから火山のように噴火し、飛び散る。


 地味男を責めることすらできなくなったあたしは、天を仰いで絶叫した。


「しま子おぉぉ――――!」


 失ってしまった。かけがえのない存在は、もう、あたしの隣にいない。


 ずっとずっとそばにいると、お互いに誓い合ったあの言葉は果たされなかった。


 いつか訪れると知っていながら、目を逸らし続けたその日は、それでもあまりに唐突で。


 別れの言葉すら交わされなかったふたりの間を、永遠に支配する。


『もう、会えない。これが今生の別れ』


 絶対的なその事実を前に、無力で脆弱なあたしは、敗北者のように受け入れて泣きわめくしかないんだ。