神様修行はじめます! 其の五

 あたしは、言葉を失ってしまった。


 絹糸の隣に、月を見上げるしま子の幻影が見える。


 背中を丸めてポツンと座って、ヒザを抱えて月を見上げている後ろ姿。


 なにも言わないその背中が、悲しくてたまらなかった。


 ……しま子は、何度も何度もそうして月を見上げていたのだろうか?


 自分と世界のすべてを失う日を覚悟しながら、恐れ続け、心の中で不安に怯えていたの?


 そんな思いを抱えたまま、いつもあたしを守り続け、笑い続けてくれていたのだろうか?


 なにも言わずに黙って耐えて。

 黙って守って。

 黙って笑って。


 でも結局、心からの願いは叶わず……


 しま子は、行ってしまった……。


「しま子」


 思わず差し伸べた手の先の、しま子の背中の幻が、両目に盛り上がった涙のせいで霞んでしまう。


 涙が頬を伝って流れ落ち、クリアになった視界の先に、しま子の背中はもう見えなかった。


 幻影の醒めた現実の世界は、ただ薄暗い夜の空間と、風にざわめく木々の枝が寂しげに揺れるだけ。


 そして、見守るだけでなにも叶えてくれない月が、黒色の空にポカリと浮かんでいた。


「なんで?」


 見上げる月が、また両目に盛り上がった涙で霞んで、よく見えない。


 涙が崩れ、頬に流れ、アゴから落ちて、また新たな涙が目に浮かぶ。


 いくら泣いても、次から次へと涙がとめどなく溢れて、尽きる気配はなかった。


「なんで? なんでよ?」


 言葉で言い表せないほどの悲しみ。胸を切り裂かれるような苦しみ。底知れない穴底に突き落とされた絶望。


 すべての感情が積乱雲みたいに膨れ上がって心を圧迫する。


 出口の見えない感情は、今にも大爆発を起こしてあたしの全身を破裂させてしまいそうだ。


 苦しい! 心も体も頭も、なにもかもがどうしようもない激情に翻弄されて、荒れ狂う!


 涙に濡れる頬を地味男の方へ向け、悪鬼のように目を吊り上げてあたしは怒鳴った。


「なんで転移の宝珠なんか使ったのよ!?」