神様修行はじめます! 其の五

 ……ついに来る。しま子が、あたしたちを襲うためにこっちに向かって来る。


 我が身に迫る命の危機に、さすがに寒気が走り、ゾクリと鳥肌が立った。


 あたし、ここで死ぬのかもしれない。しかも、大好きなしま子に殺されるなんて悲惨の極致な死に方で。


 静かな悲しさと、深い無念がひたひたと迫る。


 それでも、ここからどく気はさらさらない。その選択だけはないんだ。


 近づく振動に、否が応にも増す恐怖。怖気づく心を振り払うように、あたしは渇いたノドをゴクリと鳴らして震える指先に全身全霊で力をこめる。


 そうして、精いっぱいの気持ちを全身に込めて門川君を抱きしめた。


 この身がどうなろうとも、あたしは愛しい者を守るよ。それだけがあたしの願いなんだよ。


 無我夢中の頭の中は、まるで呪文みたいに、そのことしか考えられない。


 両目をギュッとつぶって、門川君の少し冷たい体温を無心に感じた。


 そしたら、あたしの体の下から、つぶやくような声が聞こえてきた。


「天内君……キミは僕を守っているつもりだろうが、それは違う」


 門川君の声は、ついさっきまでの怒鳴り声とはうって変わって、まるで達観したようなとても静かな声だった。


 あたしの体をどかそうとしていた力もすっかり失われて、なにかを諦めたように、ダラリと脱力している。


「キミを愛している」


 とつぜん彼の口から、その言葉がつぶやかれた。


 彼の声に含まれた切なさに、あたしは閉じていた目を思わず見開く。


「愛しているんだ。こんなにも愛する君を失った世界で、僕が生きていけると思うのか? キミは僕のすべてだ」


 見開いたあたしの両目に、じわりと涙がにじんだ。


 門川君の言葉が、心の奥にキラキラと降り積もる。


 それはまるで儚い雪のようにどこまでも優しく、どこまでも美しい、真実の言葉だった。


「何度でも言う。この世で唯一の、愛する人。キミを失ったら……僕は生きてはいけないんだ。だからどうか、僕にキミを守らせてほしい」


 愛の言葉を聞くあたしの心が、熱く輝く。


 涙があふれてあふれて、止まらなかった。


 しま子の足音はすぐそこまで迫っている。……今しかない。仮にチャンスがあるとしたなら、今が最後だろう。でも……。


「……ごめん、ね」


 涙を流しながらつぶやいたあたしは門川君を、思いの丈のすべてを込めて抱きしめた。


 きっとこれが永遠の別れになるのだろうと、心の中で思いながら。


 ごめんね、門川君。だけど、ここから逃げ出すことだけはできない。


 ねえ門川君、あたしもね、心からあなたを愛しているよ……。


 涙で言葉にならないから、この想いを告げることは叶わないけれど、どうか分かってほしい……。