神様修行はじめます! 其の五

 絹を裂くような、お岩さんの甲高い悲鳴が聞こえる。


 凍雨くんの大きな叫び声も聞こえるけど、なんだかすごく遠くて、なに言ってるのか分かんない。


 ぼーっとした頭で考えるのは、たったひとつのこと。


 しま子が……


 あたしを攻撃したんだ……。


 それはものすごく悲しいことのはずなのに、なにも感じない。


 たぶん事実に心がついていけなくて、感情が麻痺しちゃってるんだ。


 ぼうっとしたまま見上げる視界に映ったしま子が、牙を剥きながら大きく上体を反らした。


 たぶん、勢いをつけてあたしに食いつこうとしているんだろう。


 しま子が、あたしを食おうとしている。


 その姿が、濁ったレンズ越しみたいにボワッと歪んで見えた。


 あ……これ、涙だ。悲しくないのに、涙は流れるって不思議だなぁ。


 目尻から耳の方へと涙が伝って、ぼやけた視界がクリアになった瞬間……


―― ゴォォ――ッ……!!


 いきなり凄まじい冷気をまとった疾風が吹き荒れた。


 まるで地響きみたいな音を轟かせる風が、しま子の巨体を紙屑みたいに軽々と吹っ飛ばす。


 あたしの体も、風にすくい上げられるようにフワリと浮いて、何メートルも離れた場所に飛ばされてしまった。


轟音が鼓膜を刺激し、髪が旗のように靡く。


 強烈な風のおかげで、混濁していたあたしの意識がどうにか戻ってきた。


 戻ると同時に、涙も凍るほどの寒さと、せっかく戻った意識も失いそうな激痛に襲われる。