神様修行はじめます! 其の五

「そうだ。君にはとても耐えられない。だから僕がやる」


 涙と鼻水をダラダラ垂らして泣きわめくしかないあたしの耳に、ゾッとするほど冷静な声が聞こえて、あたしは息をのむ。


「君にも、仲間の誰にも、そんなことはさせるものか」


 無表情の門川君が、近づいてくるしま子から微塵も視線を逸らさず、ゆっくりと両手で印を組んだ。


「すべて、この僕が背負う」


 瞬きもしない彼の目は、しま子を凝視し続けている。


 彼が見ている物は、彼がこれから犯す『仲間殺し』という罪悪。


 門川君は、つらすぎるその罪を自分ひとりで背負おうとしている。


 あたしのために。


―― キィ――……ン


 眩い術光が彼の指先から放たれ、彼の凛とした表情を真白に照らす。


 鬼神を殺すための強烈な力が生じているのが伝わってきた。


 背後からは、お岩さんと凍雨くんのすすり泣く声が聞こえる。


 術の気が高まり、みるみると力場が形成され、凝縮した霊気の中に痛ましい感情が大きく渦を巻く。


「もはや、これまでじゃ。……しま子よ、我らの手で逝くがよい」


 厳かな絹糸の言葉を合図に、門川君の唇が言霊を唱え始めた瞬間……。


「だめえぇぇ――――!」


 あたしは、門川君の手を思い切り引き離して印を解いてしまった。


 そしてしま子を背後にかばうようにバッと両腕を広げて、門川君と正面切って向かい合う。


「そんなことさせない! あたしがしま子を殺させない! 門川君にも、そんな苦しみは絶対に背負わせないー!」


―― ザンッ……!


 背中に、不可思議な衝撃を感じた。


 痛みなのか、痒みなのか、熱さなのか、判断のつかない衝撃が首筋から腰にかけて突っ走る。


「……え?」


 ポカンと開いたあたしの口から、なぜかダラダラと赤い液体が流れだしてきた。


 これ、なに? ……あ、もしかして……血、かな?


 なんで?と思った思考がピタリと停止し、薄暗くなった視界がグルリと回る。


 背中が流水を浴びたように濡れる感触がして、あたしはその場にグラリと引っくり返った。


 ドサッと仰向けに倒れたあたしが、見上げる先には……


 鬼の爪を真っ赤に染め、返り血を浴びたしま子が、爛々と光る目であたしを見おろしていた。