神様修行はじめます! 其の五

「しま子ぉ!」


 思い出を掴み取ろうとするように両手を広げて、あたしは記憶の映像に思い切り手を伸ばした。


 でも、しま子の記憶はあっという間に小さく萎む。


 そしてあたしの手の中で、あっけなく消え去ってしまった。


「あぁ……!」


 あたしは思い出を取りこぼしてしまった手の平で顔を覆って、ノドの奥から声を振り絞る。


 消えた! あの大切な思い出を、しま子が忘れてしまったんだ!


 身を引き裂かれるような大きな絶望が、お腹の底から込み上げてきた。


 心はこんなに苦しいのに、その反面、呼吸の苦しさは消え去っていく。


 楽になっていく自分の体の、その悔しさとやるせなさに歯を食いしばり、あたしはポロポロと涙を流した。


 しま子が……あたしを守ってくれている。


『自分のことは自分でなんとかするから』なんて、偉そうなこと言ったけど……


 そんなこと、なかった。一度もなかった。


 いつもいつもあたしは、しま子に守られていた。


 しま子が自分のすべてを犠牲にして、あたしの苦痛のぜんぶを引き受けて、あたしを守り続けてくれた。


 見返りなんて何ひとつ求めない、優しくて、心の綺麗なしま子。


 ただひたすらあたしを愛してくれたしま子が、あたしを忘れていく。


 大好きなしま子が、あたしのことを忘れていく毎に、こうしてあたしは救われていく!


 そんなの……そんなの……!


―― フッ……


 あたしの悲しみをよそに、視界の端にまた映像が浮かぶ。


 左右に、頭上に、足元に、幾つもの映像が、シャボン玉のように次々と浮かび上がる。


 この記憶たちが消えてしまうんだ。しま子の中の、あたしとの思い出が、ぜんぶ!


 無力感に打ちのめされ、涙を流しながらながら、あたしはそれらの思い出たちを眺めた。