それ、最悪……。
絹糸の言葉通り、あたしは悪夢の中に捕えられたまま刻一刻と死に近づいていた。
この血の池地獄からなんとか浮上しなきゃ本当に死ぬ!
―― グィッ!
浮上しようとしたとたん、誰かに胸ぐらをつかまれて思い切り引きずり下ろされた。
悲鳴と息がゴポゴポと大きな気泡になる。
思い通りにならない体を必死に動かし、胸ぐらを掴む手を引き離そうとして、目の前にいる亡者と目が合った。
そして、ゾッとする。
気味の悪い色に変色した顔は、ブヨブヨに腐って醜く膨らんでいる。頭髪は抜け落ち、目玉の片方が失われ、鼻が欠けて骨が見えた。
口元の肉が溶け落ちて、剥き出しになった歯で亡霊が笑っている。
『天内の娘よ。さあ、わらわと共に届かぬ月へ手を伸ばし、奈落に堕ちようぞ』
……奥方!?
おぞましい姿に変わり果てた奥方が、あたしを地獄の道連れにしようと、腐敗した手で首を絞めながら抱き付いてくる。
嫌あぁ! もうダメ、こんなの耐えられない――!
『天内君、待っていろ! 今すぐ僕が助ける!』
混乱の極致の中で聞く門川君の声は、いつもの平静さの欠片もない。
いよいよ本気であたしの命に猶予がないんだと思い知って、死ぬほど焦った。
『絹糸、獏の弱点を教えてくれ! 一刻も早くなんとかしなければ天内君が死んでしまう!』
『言うたであろうが! この神獣と合い見えるのは我も初めてなのじゃ! 弱点など知る由もない!』
『なら……いったいどうしろと言うのだ!』
その声は、もはや悲鳴だった。
『獏よ、天内君にかけた術を解け! 悪夢から彼女を解放しろ!』
悲鳴は、悲痛な哀願へ変わった。
これがあの誇り高い彼なのかと耳を疑うほど、なりふり構わぬ声だった。
『どうか彼女を僕に返してくれ! 彼女は……彼女は僕のすべてなんだ!』
絹糸の言葉通り、あたしは悪夢の中に捕えられたまま刻一刻と死に近づいていた。
この血の池地獄からなんとか浮上しなきゃ本当に死ぬ!
―― グィッ!
浮上しようとしたとたん、誰かに胸ぐらをつかまれて思い切り引きずり下ろされた。
悲鳴と息がゴポゴポと大きな気泡になる。
思い通りにならない体を必死に動かし、胸ぐらを掴む手を引き離そうとして、目の前にいる亡者と目が合った。
そして、ゾッとする。
気味の悪い色に変色した顔は、ブヨブヨに腐って醜く膨らんでいる。頭髪は抜け落ち、目玉の片方が失われ、鼻が欠けて骨が見えた。
口元の肉が溶け落ちて、剥き出しになった歯で亡霊が笑っている。
『天内の娘よ。さあ、わらわと共に届かぬ月へ手を伸ばし、奈落に堕ちようぞ』
……奥方!?
おぞましい姿に変わり果てた奥方が、あたしを地獄の道連れにしようと、腐敗した手で首を絞めながら抱き付いてくる。
嫌あぁ! もうダメ、こんなの耐えられない――!
『天内君、待っていろ! 今すぐ僕が助ける!』
混乱の極致の中で聞く門川君の声は、いつもの平静さの欠片もない。
いよいよ本気であたしの命に猶予がないんだと思い知って、死ぬほど焦った。
『絹糸、獏の弱点を教えてくれ! 一刻も早くなんとかしなければ天内君が死んでしまう!』
『言うたであろうが! この神獣と合い見えるのは我も初めてなのじゃ! 弱点など知る由もない!』
『なら……いったいどうしろと言うのだ!』
その声は、もはや悲鳴だった。
『獏よ、天内君にかけた術を解け! 悪夢から彼女を解放しろ!』
悲鳴は、悲痛な哀願へ変わった。
これがあの誇り高い彼なのかと耳を疑うほど、なりふり構わぬ声だった。
『どうか彼女を僕に返してくれ! 彼女は……彼女は僕のすべてなんだ!』


