のっぺりとした白地のお面に、シュッと細く吊り上がった墨色の両目。
ヒゲの紅色が、この暗闇の中でひと際鮮やかに目に映る。
体全体を覆い隠すような黒い衣装が、周囲の闇に溶け込んで、お面だけがポカリと宙に浮いているかのように見えた。
久しぶりに見た姿に、あたしは思わずその名を口にする。
「狐面」
『私を覚えていたか』
あたしは、うなづいた。
忘れるわけない。覚えているよ。あんたがあたしの目の前で死んだあの日から、ずっとずっと。
半妖という、世にも珍しい存在として生まれた男。その希少さゆえに奥方の目にとまり、側仕えになった。
あんたは奥方に道具として利用され、最期は洞窟の崩壊に巻き込まれて、遺体すら残らなかった……哀れな敵の亡霊だ。
『それでも私は、幸せだった』
あたしを見おろしている仮面の奥から、静かな声が聞こえる。
『自分が道具としか思われていないことなど、知っていた。それでも奥方様のために生き、あのお方の隣で死ぬことだけが、私の望みだった』
狐の片目から墨色の涙がつうっと伝い、あたしの手の甲にポタリと落ちる。
流れる涙に墨が溶けたのかと思ったけれど、違う。
落ちた涙は赤かった。
これは、血の涙。血の色があまりに濃すぎて、黒く見えるほど変色してしまっているんだ。
それほどまでに、この亡霊の無念は深いのか……。
『私は、ひとりで死んだ』
ポタリ、ポタリと血の涙が滴り落ちる。
狐のお面は幾多の涙の跡で黒く染まり、あたしの手の甲も見る間に血の色で染まりゆく。
『奥方様と死ぬことだけを……望んでいたのに……』
ヒゲの紅色が、この暗闇の中でひと際鮮やかに目に映る。
体全体を覆い隠すような黒い衣装が、周囲の闇に溶け込んで、お面だけがポカリと宙に浮いているかのように見えた。
久しぶりに見た姿に、あたしは思わずその名を口にする。
「狐面」
『私を覚えていたか』
あたしは、うなづいた。
忘れるわけない。覚えているよ。あんたがあたしの目の前で死んだあの日から、ずっとずっと。
半妖という、世にも珍しい存在として生まれた男。その希少さゆえに奥方の目にとまり、側仕えになった。
あんたは奥方に道具として利用され、最期は洞窟の崩壊に巻き込まれて、遺体すら残らなかった……哀れな敵の亡霊だ。
『それでも私は、幸せだった』
あたしを見おろしている仮面の奥から、静かな声が聞こえる。
『自分が道具としか思われていないことなど、知っていた。それでも奥方様のために生き、あのお方の隣で死ぬことだけが、私の望みだった』
狐の片目から墨色の涙がつうっと伝い、あたしの手の甲にポタリと落ちる。
流れる涙に墨が溶けたのかと思ったけれど、違う。
落ちた涙は赤かった。
これは、血の涙。血の色があまりに濃すぎて、黒く見えるほど変色してしまっているんだ。
それほどまでに、この亡霊の無念は深いのか……。
『私は、ひとりで死んだ』
ポタリ、ポタリと血の涙が滴り落ちる。
狐のお面は幾多の涙の跡で黒く染まり、あたしの手の甲も見る間に血の色で染まりゆく。
『奥方様と死ぬことだけを……望んでいたのに……』


