神様修行はじめます! 其の五

 気がつけば、やたらジメジメと湿った空気が肌にまとわりついている。


 そして天井のあちこちから落ちる水滴が、『ピチョン……』と寂しい音を周囲に反響させていた。


「ここは……どこ?」


 光の射さない薄暗がりの中で、懸命に目を凝らしたら、ゴツゴツした黒い岩壁がずっと先まで続いているのが見えた。


 なぜ自分がここにいるのか、ここがどこなのかまったく理解できない。


 あれ? あたし、こんな所でなにしてるの?


 そもそも……


 あたしって誰だっけ……?


 暗闇の中で首を傾げるあたしの頭の中は完全に空白で、なにもない。


 自分には過去なんかひとつも無くて、今この瞬間に生まれたばかりみたいに、カラッポな気がする。


 しばらくそうして立ち止まってボンヤリしているうちに、寂しさも恐怖もなにも感じない頭が、ようやく気がついた。


 あぁ、そうだ。


 ここは洞窟だ。


 出口の見えないトンネルのような洞窟の中を、あたしはずっと歩き続けている途中なんだった。


 さあ、休んではいられない。また歩き出さなければ……。


 義務感に追い立てられるように、あたしは孤独な世界をノソノソと歩き始めた。


 いつから、あたしはこの道を歩き続けていたんだろう。


 そしてどこまで行けばいいんだろう。


 その答えも出せぬまま、棒のように疲弊した足を引きずりながら延々と歩き続ける。


 外界と断絶された闇の中で、押し殺した静寂と、滴る水滴の反響音だけが静かに、そして虚しく耳に響いた。


 先の見えない道行きは遠く、息が切れて苦しくてたまらない。


 疲弊しきった体はもう限界で、今にも倒れてしまいそうだけど、休むわけにはいかない。


 どんなにボロボロになろうと、死ぬほど苦しかろうと、あたしは進み続けなければならない。


 なぜなら、あたしの命は………


『そう。お前の命は、私の屍の上に咲いた仇花だ』


 滴る水滴と、自分の呼吸の音以外、初めて聞いた声。


 ゆっくりと顔を上げると、闇の中に狐の面がポカリと浮かんでいた。