「愛する水晶の最期の願いを叶えるためなら、私はどんなことでもいたしますとも」


 地味男の言葉も終わらないうちに、水絵巻からまた大量の靄が噴き出した。


 辺りがすっかり白く覆われて、地味男の姿も、すぐ側にいたみんなの姿も一瞬で見えなくなってしまう。


 あたしは反射的に手で靄を掻き分けて、視界を確保しようとしたけど無駄だった。


「みんな、どこ!?」


「アマンダ、わたくしはここですわ!」


「皆、気をつけよ! ……来るぞ!」


 キーンと鼓膜が震えて、マロさんが張ってくれた結界が全身を覆った。


 と同時に、白い靄の中にふたつの霞月がぼうっと浮かびあがる。


 それは山中に響き渡る咆哮と共に、一気に天へと上昇した。


「……龍だ!」


 もう一匹出てきた! あいつきっと、異形の通る『道』を探しに行くつもりなんだ!


「させぬ!」


 絹糸が靄の中から素早く飛び出し、龍の後を追って夜空を駆ける。


「にいぃ!? に――! にぃ――!」


 まだ治癒が終わっていないのか、絹糸を制止する子猫ちゃんの必死な鳴き声が聞こえた。


 我が子の悲痛な声を振り切って絹糸は戦いに身を投じる。天空で再び神獣同士がもつれ合い、激しく牙を剥いた。


 でもいくら戦っても絹糸は勝てない。なにしろ相手は死なないんだもの。


「セバスチャン! もう一度あの蔦を出してベルベットちゃんに加勢して!」


「申し訳ございません。わたくしめの力では、先ほどの龍を抑えているだけで精一杯でございます」


「凍雨くん! せめてあの龍、氷漬けにできない!?」


「無理です! 絹糸さんとの距離が近すぎて一緒に攻撃しちゃいます!」


 まだ回復しきれていない絹糸もろとも攻撃するわけにはいかない。あぁ、どうしよう!