「成重様は、私を憎んでおられるのですね?」


 見えない糸が張りつめるような、心もとない緊張感が漂う空気に弱々しい声が響く。


 それは、水園さんの声だった。


 抜け殻みたいになった水園さんは、視点の定まらぬ虚ろな目をして、クレーターさんに抱きかかえられている。


 やっとのことで娘を取り返したはずのクレーターさんもすっかり放心して、喜びの片鱗もうかがえない。


 互いに同じ虚しさを分かち合う者同士が、依存し合っているだけのように見えた。


「なら私が死ねば、このような恐ろしいことはお止めになってくださいますか? あなた様はただひたすらに、私への復讐を望んでおられるだけなのでしょう……?」


 か細い鈴の音のような声が、悲しく問いかける。


 そうだ。地味男は憎んでいるんだ。


 生き残る能力を持たない水園さんの代わりに、能力を持っていた水晶さんが死んでしまったという理不尽さを。


 そんなことを認めるわけには、納得するわけには決していかない。


 だから言い出したんだ。


『現世の者たちの身代わりになって、神の一族たちが死ぬことは間違いである』と。


「いいえ、それは違います」


 救いを求めるような水園さんの細い声を、きっぱり断ち切る声が答える。


「水晶はあなたと小浮気一族と、そして世界を守るために死んでいった。その願いを叶えるために私は決意したのです」


 虚脱感に満ちた水園さんの両の目から、ポロポロと透明な涙が零れ落ちた。


 彼は水園さんの前では絶対に認めない。


 自分の行為が、ただの個人的な復讐であることを。


 なぜなら、水園さんが死んで罪を償うことを彼は許さないから。


 能力を持たない現世の人間たちが次々と殺されていく様を、これでもかと言わんばかりに水園さんに見せつけて、


『これはすべて、お前が原因なのだ』


 ということを、まざまざと思い知らせるために。