お岩さんもセバスチャンさんも、凍雨くんも、マロさんも、みんな息を殺して黙り込んでしまっている。


 おそらく彼らもみんな、考えているんだ。


『自分たちの命を犠牲にして現世を守ったところで、感謝ひとつされるわけでもない』という現実を。


 遠い昔の頃はまだ、『守る』ということに大きな意味も意義もあったんだろう。


 でも長い長い年月を経て、今では現世と神の一族の関わりはすっかり薄れてしまった。


 それでも否応なしに異形たちは自分たちに襲いかかってくるのだから、戦うしかない。


 神の一族たちは、『自分たちこそが世界を守っているのだ』というプライドに縋るしかなかった。


 その結果、戦って死ぬ確率の高い一族ほど優遇され、それ以外の者たちは卑下されてしまう図式が出来上がった。


 そうでもなければ、やっていられなかったからだ。


 だってどんなに大きな犠牲を払っても、守ってやっている当の本人たちは、その事実すら知らない。


 そんなこと、虚しいに決まってるじゃないか。


 それでも神の一族たちはこの先も永遠に耐え忍び、戦い続けるより他にないはずだった。


 ……そのはずだったのに。


 耐え忍ばなくてもいい方法が、見つかってしまった。


 だとしたら……


 神の一族たちは、はたして地味男のこの決断をどう受け取るだろう。


 戦う能力のない者を異形の前に差し出すなどと、悪逆非道と捉えるか。


 それとも……?