「じゃあみんな、あたしが案内するからついて来て!」


 意気揚々と、武家屋敷から夜の町に一歩繰り出したあたしの足が、そこでピタリと止まってしまった。


 ありゃ? そういやどっちの方向に行きゃいいんだっけ?


 山がどこにあるのか、あたし知らないや。


「お前では案内は無理じゃ。後ろに下がっておれ」


 おう、忘れてた。決められた方向に、決められたスピードで進まないと、たどり着くこともできない山なんでした……。


 あたしは絹糸に先頭を譲って、スゴスゴと最後尾についた。


 うぅ、唯一の現世出身者なのに、役に立たない感がハンパない。自分が情けないっス。


 ゾロゾロと連なって歩きながら、メンバーのみんなは夜の町の様子にすっかり魅了されている。


 この付近はそんな繁華街ってほどじゃないけど、それでも静かな住宅街に比べれば賑やかだもんな。


 道路沿いに居並ぶお店のショーウィンドウや、整然と立つ街灯の灯りが、薄黒いアスファルトの足元を明るく照らしている。


 看板の色とりどりの照明、横断歩道の点滅、車道を行き交う車のライトに、排気音。


 夜の闇に包まれてはいても、人工の明るさで照らされた町は人の通りも多くて、静けさとは無縁だ。


「この世界は休むということを知りませんの? つくづく不思議な世界ですわねぇ」


 そう言ってお岩さんが溜め息を洩らした。


 クレーターさんもキョロキョロしながら納得している。


「こんな不思議な世界で、滅火の娘は生まれ育ったのか。これならば、お前がたいそうな変わり者なのもうなづけるな」


「クレーターさん、それ、さりげなくあたしのこと貶してるよね?」


 ていうか、さっきから店先の品物を物色すんのヤメてくんない?


 取って懐に入れたら、それ万引きだからね? 犯罪。