廊下の奥の広間に入ると、もうそこに全員揃ってあたしを待ち構えていた。


「天内さん、しま子がお待ちかねですよ」


 凍雨くんが差し出した両手の中に、しま子がお行儀よく正座している。


「あ~、あ~」


 嬉しそうに笑いながら、あたしに向かって一心に両手を差し伸べてくる可愛らしさに、思わず微笑んでしまう。


「お待たせ、しま子。しま子のために、ちゃーんと胸ポケットのある服に着替えてきたからね。さ、どうぞ」


「うあぅぅ~」


 さっそく胸ポケットの中にモゾモゾ入り込んで、満足そうに顔を覗かせているしま子の姿に癒される。


 しま子可愛い。しま子大好き。しま子のおかげで、なんか元気出てきた気がする。


「ありがとね、しま子」


 人さし指の先っぽで、しま子のほっぺたをそっと撫でた。


「うあう?」


 しま子がキョトンとあたしを見上げて、すぐに目を細めてニコニコ笑ってくれる。


 ……うん。シリアスになってる場合じゃないよね。守るべき物を守らなきゃ。


 よし、元気出して、気ぃ引き締めて、今後の問題に取り組もう!


「で、これからどうするか計画はあるの? 絹糸」


「うむ。月じゃ」


 間髪置かずに帰ってきた返答の意味がわかんなくて、あたしは首を傾げた。


「月ってなに?」


「夜空に浮かぶ物体じゃ」


「いや、それくらいはあたしも知ってるけどさ」


 あ、そういえば絹糸、穴の底でマクシミリアンと戦っていたとき、なにかに気がついたみたいだった。


 水園さんも転移の宝珠で立ち去る寸前、『月』とか言ってた気がする。