背中に回した手をシッ、シッって振って、必死に『こっち来んな』アピールしたけど、余計にお岩さんは不思議そうな顔して近づいて来てしまった。


「アマンダ、どうかなさったの? あら? こちらのお嬢さんはどちら様?」


 お岩さんは現世の人間に興味津々な様子で、真美の頭のてっぺんから足の先までジロジロ眺めている。


 いまにも噛み付かれそうな勢いにビビッた真美が、『なに? この人』って顔して後ずさった。


 真美が後退した分、お岩さんが前進してズイズイ距離を詰めていく。


 うおぉぉ、頼む、お岩さん! 不審に思われないよう、全力で自然に振る舞ってくれ自然に!


 ……あ、ダメだ。お岩さんが自然に振る舞ったら、それが一般人にとっては奇行に見えるんだった。


「えーっと、えっとね、彼女はあたしの親友の、篠田真美(しのだ まみ)ちゃんです」


 冷や汗ダラダラで真美を紹介したら、お岩さんのこめかみがピクリと反応した。


「……親友? こちらのお嬢さんはアマンダの親友ですの?」


「う、うん。そうだよ」


「これは、お初に御目文字致しますわ篠田様。わたくし、アマンダの『親友』のジュエルと申します」


『親友』の部分にアンセントを置いて、お岩さんが自己紹介をする。


 セーラー服のスカートの裾を摘んで、優雅に腰をかがめて頭を下げるお岩さん流挨拶に、真美がすっかり度胆を抜かれた。


 絶句している真美を、お岩さんが挑戦的な目つきで見ている。


 やだ、ちょっと、まさかお岩さんてば真美に対抗意識燃やしてる?


 やめてやめて! そんな余計な火種を撒かないでいいからー!


「ジュ、ジュエル? ジュエルさん?」


「ええ、ジュエルですわ。どうかアマンダ同様、わたくしのこともお見知りおきを」


「アマンダって、もしかして里緒のこと言ってるの?」


「アマンダはアマンダですわ。その名はわたくしと彼女の間に生まれた、永遠の友情の証ですの」