「クレーターさん、しま子を打ち出の小槌で小さくしてくれる?」


「わかった」


「凍雨くん、あたしの胸ポケット破れちゃったから、凍雨くんのポケットにしま子を入れてね」


 小さくなったしま子を凍雨くんに預けてから、絹糸の背中に乗ったあたしたちは、急いで穴の出口付近へと向かった。


 あともう少しで出口という所で絹糸から降りて、各々が自力で斜面をよじ登っていく。


 穴の外まで運んでもらえれば楽なんだけど、万が一にも、絹糸の姿を誰かに見られるわけにはいかない。


 必死になって両手両足を動かして上を目指しながら、あたしは恐怖に慄いて泣きべそをかいてしまった。


 ひえぇ、ほんの短距離とはいえ、人生初のロッククライマーだ。こ、怖いよぉ!


 傾斜は急だし、手が滑ったりしたら奈落の底へ真っ逆さまだ。


 なのに土がすごく脆くて崩れやすくて、手元も足元もボロボロ砕けていくぅ。


 切り立った断崖を登る人をテレビで見ながら、「この人たち、なんでこんなことするんだろ?」って思ってたけど、まさか自分がそれより危険なパフォーマンスをするとは夢にも思わなかった。


 実際やってみて、ますます実感。こんなことする人の気持ちがわかんないー!


 こんな危ないマネ、やめといた方がいいって絶対! いつかケガするから!


 全身土まみれになってヒィヒィ言いながら、なんとか無事に穴から出たときは心底ホッとして、生きてることに感謝した。


 早く穴から離れようとフラつく足で歩き始めたとたん、校舎の方から大きな声が聞こえて、そちらに顔を向ける。


「里緒!?」


「……真美(まみ)!?」


 一階の廊下の窓際に、生徒たちがズラッと並んでこっちを眺めている。


 その顔ぶれの中に、あたしの親友の真美がいた。